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ゆかた

  年に一度、夏が近づいたある日。 学校から帰ると、誰もいない日があった。「おかえりなさい。」と祖母と母が出迎えてくれる毎日であったが。玄関も他の出入り口にも鍵は掛けられていない。テーブルの上に、「おばあちゃんと日立にお買い物に行ってきます。」「おやつが置いてあります。」等々、書かれた置手紙を読んでいると、近所の方が必ず様子を見に来てくれる。ご近所との交流が密な時代であった。                    

 祖母と母の出迎えがないのは寂しかったが、お買い物の品は推測でき、早く帰ってこないかと待ち遠しかった。お買い物の品は、 私達姉妹や父の浴衣地だから。今年は、どんな模様なのか。何色なのか。また、ご近所では購入できないケーキやおやつも買ってきてくれる。

 祖母と母が帰宅すると、新しい浴衣地を身体に当て、寸法を確認し、縫いに入る。しかし、必ず、妹の方が先で、お姉ちゃんは後からであった。しかし、祖母と店を行い、家事を行う忙しい中、時間を割いて縫い上げてくれる母に我儘は言えないと、こども心に思っていた。

 忙しい中、早く新しい浴衣を着せたいと、睡眠時間を削りながら仕上げてくれた母心。今は感謝に尽きる。